Hiro Arai 写真館

ヒロ・アライ (俳優/写真家)

英国ロンドンにてロック・バンドでライブ活動中に俳優として見出され、
1986年英仏合作映画「CAPTIVE」で俳優デビュー。
英TV・米映画・南米CMなどに出演した後、帰国。
その後、日本映画・ドラマ・舞台・CMで活動を続ける。
1997年役者活動を休止し、砂漠を求めて北アフリカを放浪する。
2004年よりドキュメンタリーとアートの融合をテーマに本格的に写真に取り組み、
2005年エジプト/カイロのアート・ギャラリー[Town House]にて写真展を開催し写真家デビュー。
現在、カイロを拠点とし、北アフリカとアラビア半島の撮影を続けている。

 

 

[ a Lady In the Mosk] 2005

北アフリカの小さな国、チュニジア南部のリラックスしたオアシスの町、トズール。
サハラ砂漠に点在する他のどのオアシスとも違った、砂漠の民を感じさせない独特なエスニック色の強い町だ。
砂の匂いが混じったレイド・バックした乾いた空気の中で、いくつもの半月型の光が町はずれの小さなモスクにやさしく差し込んでいた。
日没が近づいていく中、その光をレンズが狙った直後に「女性」は清楚な残像だけを残して、音も無く去っていった。

[ untitled ] 2005

時が数百年前に止まってしまったようなアラビア半島の国イエメンの町、サナア。
男たちは腰にジャンビーヤと呼ばれる短刀を差し、
高山気候特有の涼しく澄んだ空気の中で誇り高く町を闊歩する。
時代劇の映画セットのような旧市街の裏通りで、サムライのような2人の男たちとすれ違った。
カメラを向けようと思った瞬間に「男たち」は敏感にそれを感じ取り、
静かにしかし力強い視線で振り返り、立ち止まった。

[ Saiidi In Cairo ] 2006

数千年も前から、ナイル河を中心に文明が存在した国エジプトの首都、カイロ。
スフィンクスを照らしていた月や星のやわらかい光は、煌びやかなネオン・ライトにかき消されていった。
砂漠を旅した強靭な隊商たちのラクダの群れに替わって、今では夥しい数の車と人々の激しい感情がこの大都会を行きかっている。
「男」は簡素な民族衣装を身にまとい、時代に取り残されてしまったかのように、大河のゆったりした流れをいつまでも見つめていた。

[ Woman In the Mirror ] 2005

モロッコの中で観光客はほとんど素通りしていく、名前だけが有名な町、カサブランカ。
港町特有の猥雑な空気で満ちた街角には、海風と共に潮の香りがほのかに漂い、モスクからはコーランの音が流れていた。
荒くれ漁師たちや浮浪者のような偽ガイドたち、ジュラバを着た派手な女たちが、何も無いこの町に刺激的な緊張感と妖しい艶を与えている。
何も無い鏡の中を狙ってゆっくりシャッターに触れた瞬間、強烈な存在感と共に「彼女」はロッカーのように飛び込んできた。